8 I ’M 85 Years Old
あの日、ルーと出会って全てが変わったような……変わってないような……
まず変わった点。
①お兄ちゃんが私をデロデロに甘やかすようになった。
あの日を境にお兄ちゃんは180度人が変わってしまったようだ。私を見ても険しい顔で一瞥するだけだったのに、今では重度のシスコンだ。イケメンは怒ったら恐ろしかったが、笑顔はある意味それ以上に破壊力抜群!
この二年、自分も忙しいのに自ら私に武術の初歩を稽古つけてくれて、おやつの時間は膝に乗せ、寝る前は読み聞かせをし、私のほっぺにおやすみのキスをする。お兄ちゃん……12歳になり子供から美少年に順当に成長し……そんな彼からチューなんかされたら興奮して寝れないって!ウソ、寝るけど。グーzzz。
ルーとのことがあって、完璧な子息であることを辞めたのかな?いっぱい泣いていい具合に力が抜けたかな?まあよかった、よかった。あと一年で魔法学院入学だけど、まだヒロインや主要メンバーはいないから特に注意しないでオッケー!よく遊び、よく学べ!
②パパンもますます私をデロデロに甘やかすようになった。
お兄ちゃんと私が仲良くなったのが嬉しいのか、心からの笑みを浮かべ、少ない自由な時間を全て子供に傾けるシングルパパ。ようやくお母さまの死の衝撃が昇華されたのか、お顔の憂いがなくなった。
家にいるときはほぼほぼ私を膝に乗せ、移動するときは抱っこor手繋ぎ。褒めて育てる主義なのか私が幼いためか、私の魔法や武術の修行を優しく見つめ、褒めそやす。お兄ちゃんとは真剣な顔でよく話しあっているけど。
③ルーがチョッピリでかくなった。
身体が子犬から柴犬サイズになった。本来私の魔力吸い取るだけでいいはずなのに、パパンが買ってくる評判のお菓子やコックの自信作の食事を我先に食べる食い意地張った聖獣。なぜか頭や肩に乗っかってても重みないけれど。我が家にすっかり馴染み態度もそりゃーでかい。
次、変わってない点。
①私は小説どおりのチートな魔法使いだった。
まず、〈痛いの痛いの飛んでけー〉的な用途のはっきりした前世のおまじない系は100パーセント効く。先日領地を襲った大寒波は〈あーした天気になーあれ〜〉の下駄占いを、ルー協力のもと、ズルしてバチっと表で止めたら一気に晴れ間が差して乗り切った。うっかり〈指切りげんまん〉とかやっちゃダメな気がする。かるーく破ったら針千本……
それ以外の魔法はあれからルーと二人でイロイロと試してみた。私は前世の記憶のせいであらゆる魔法を思いつく。そもそもこの世界には大まかに分けて水系、火系、土系、風系の4つしか魔法の分類がなく、みんなそんなもんだと思ってる。
でも私はドライヤーをイメージして火と風を適当に組み合わせる。さらに怪我を治すためにウイルスをやっつける強いワクチンや抗生剤をイメージしたり、前世のネコロボのポケットを参考に空間魔法を作ってみたり。明確なイメージがバチっとハマったらイロイロと新作魔法を作りあげてしまうのだ。
あとは加減や精度の特訓をルーにつけてもらい、役にたつかたたないか、二人で吟味し、完成させる。そして私の個性にあっていると判断したら、その魔法を発展させる方法を考える。
『ほんと、セレって面白いよねー。退屈しないし、おれも強くなるし、魔力美味しいし。セレと一緒だといいことばっかり。セレ、肩凝りヒドイからじんわりモミモミの魔法して〜!』
「あの超音波と熱を合体させたやつ?」
『そうそう、先生を癒してくれたまえ』
「…………先生、今日食って寝てるだけだったじゃん……」
このまま成長すれば、間違いなく、ヒロインのライバル足りうる実力をつけて、国を混乱に陥れる元凶として全力で排除されるだろうな……
②結局私は小説どおり聖獣と契約してしまった。
ただ小説は〈使役〉という言葉を使い、今回お父様は〈契約〉という言葉を使う。無理矢理かノリノリかの違いなんだろか?私とルーの関係性が今後悪化したら変わっていくのかな?結局あと10年待たないとわかんないか。
結局のところ、家族やルーとの関係性や私の決意の変化はあれど、大きく小説のルートを逸脱するような事件も事象も起こってない。依然悪役行きのレールに乗ったままだ。
そして、こんな状況の中、5歳の魔力検査がやってきた。